ひじきに似ていることからこの名がついたというおかひじき。もともとは海辺に自生する雑草なのに内陸の南陽で栽培されるようになったのは、かつてここが庄内浜からの船着き場だったから。最上川をはるばる上っておかひじきの種がたどり着き、江戸時代初期からこの地に根付いたのです。
栽培発祥の地、南陽市で現在もおかひじきを作り続ける、南陽おかひじき部会の横沢茂光部会長を訪ねました。
この日、大友一彦副部会長、JA山形おきたま南陽支店園芸担当の長嶋忍さん、新潟中央青果株式会社蔬菜第二部第三課の今井一明課長代理もいらっしゃり、おかひじきに関するお話を様々な角度からお聞かせいただきました。
左から横沢茂光さん、大友一彦さん、長嶋忍さん、今井一明さん
―おかひじきを作る―
横沢さん:現在、南陽おかひじき部会の人数は8名です。30~40年前に東京の方におかひじきを出荷したのがこの部会の始まりです。
大友さん:発部当初、部会には30名以上いたのですが、病害が発生したり虫が出たりすると栽培が難しくなり次々辞めてしまい、少ない時は4人にまで減りました。私は50歳から脱サラして農業を始め、この部会にも入ったのですが、やりがいがあって、寝なくていいくらい面白いですよ。
横沢さん:私のところでは父の代からおかひじきを作っています。私が小学校か中学校くらいの頃からですね。朝が早くて、おかひじき農家は大変だなと子供ながらに思っていました。
大友さん:おかひじきは日中刈るとしなびたり活きが悪くなるので、早朝だけに行います。4時~8時頃まで収穫をして、12時までに農協に持っていきます。害虫が混ざってないか、弱っているものはないかなど、品質のチェックは刈るときと袋詰めするときと二重に確認します。
長嶋さん:今は袋に虫が入っていただけでも問題になってしまいますから。虫もダメ、農薬もダメなので大変です。
大友さん:おかひじきは使用できる農薬が少ないんです。他の野菜は良くてもおかひじきには使ってはいけないという農薬がほとんど。人体に害のない、本当に弱い農薬しか使えないんですよ。
横沢さん:午前中に出荷を終わらせて、午後には種撒きなどを行います。自分の家で栽培する分の種は自分で採っていますが、ほうれん草などと違って一つの種から収穫できる量が少ないので、たくさんの種が必要になります。刈っても下から出てくるので昔はそれを数回刈っていましたが、今は1回しか刈らずにその都度撒き替えしています。
大友さん:何度も刈れば、たくさんの種を採る必要も何度も種蒔きをする必要もないですが、2回目以降に収穫したおかひじきは、やっぱり細く固くなるし食味も落ちるんですよ。
横沢さん:肥料もしっかりあげないと固くなってしまいます。もともと自生していたものは細くて固くていまよりおいしくなかったのでしょうね。栽培方法の工夫などでおいしくなってきたのだと思います。
大友さん:部会にはね、栽培の「掟」のようなものもあるんですよ、おかひじきは朝に収穫する、2度刈りはしない、品質チェックは収穫時と出荷時の2回行う、これを徹底してるんです。
長嶋さん:農協としても品質にはかなりこだわりますから、ここのおかひじきは安心して出荷できます。
横沢さん:はじめて食べた人にがっかりしてほしくないですからね。やっぱり、うまいものを食べてもらいたいですよ。
―〝つるしゃき〟がおすすめ!―
大友さん:おかひじきの定番はからし醤油ですね。どの家庭でもまずはこれ。そのほか、卵焼きや天ぷら、海苔巻、サラダ…と食べ方はいろいろあります。おかひじきはなんにでも合いますから。うちでは時々納豆に入れて食べますよ。あとはひやむぎと一緒に食べたり。色合いも良くて、食べるとつる~っとして噛むとしゃきっとしておいしいんですよ。だから私は食べたくなると「“つるしゃき”すんべ」って家族に言うんです。夏に最高ですよ。
長嶋さん:先日はテレビでも紹介されたみたいですね。スパゲッティーに混ぜるとか。
横沢さん:菊の花と一緒に食べてもおいしいですよ。一緒に海苔巻にすると断面がきれいです。
大友さん:おかひじきは特に女性にはもってこいの野菜だと思うんですよ。料理は簡単だし、栄養豊富だし。うちでは家内とけんかした時はいつもおかひじきを出すんですよ。豊富に含まれる鉄分が、いらいらを和らげてくれるそうですから(笑)
―おかひじきのこれから―
今井さん:おかひじきを出荷しているところはほかにもありますが、この部会のおかひじきはすごく品質がいいのでわざわざを指名して買ってくれる市場もあるんですよ。5年くらい前からは関西方面からもお話があり、卸しています。
大友さん:子供たちも食べやすいし栄養もあるので学校給食にも取り上げられています。
長嶋さん:全国的に取り上げられていますね。ただ、給食は量が多いし欠品出来ないのが難しいところです。給食の市場は伸ばしていきたいところですが、いま市場に出荷している数量を減らすわけにもいかないですし。
大友さん:残念なことに生産が追いつかないんだよな。
横沢さん:周囲の農家でも、興味があるけれどなかなか手が出せないという人も多いです。作り方の教科書があるわけでもなく、土地によって違いも出るのでここで通っているものが別のところではうまくいかないこともありますし。
長嶋さん:収量の問題はありますが、おかひじきを知らない人は多いので、まだまだ伸びる要素がある野菜だと思います。
横沢さん:部会では消費拡大と、部会員が直に消費者の意見を聴くため年1回各地で試食販売をしていますが、スーパーで見たことはあるけど食べたことはないという方がとても多い。ぜひたくさんの人に食べて頂きたいですね。
おかひじきは一般的にはなじみが薄いかもしれません。だけど皆様がおっしゃる通り、調理も簡単で食べやすく色合いも良いため、食卓やお弁当にどんどん取り入れたい野菜です。栄養価としては、カリウムやカルシウム、マグネシウム、カロテンなど、体に必要なミネラルが豊富!また2週間ほど日持ちもするので冷蔵庫にストックしていてもOK。もともとは春の野菜ですが、ハウス栽培で真冬以外は通年楽しめるようになりました。
しゃきしゃきおいしいおかひじき、ぜひ様々な食べ方で召し上がってみてくださいね!
(取材日:2013.5.13)