「元気な真鴨がおいしく安全なお米を育てる」
おきたま興農舎
置賜の景色は、田んぼとともに移り変わります。雪が解け暖かくなると、田んぼに水が張り田植えが始まります。夏には青々と穂が育ち、秋にはその青の穂波が黄金色に変わります。風に揺れる稲穂は、まさに黄金の草原のようです。
高畠町にある 「おきたま興農舎」 は、 2 0年以上前から化学農薬や化学肥料に頼らず農作物を作り続ける農業団体です。お米に関しては、つや姫・コシヒカリ・ヒトメボレ・ササニシキを栽培し、有機JAS認定ほ場の14.5haを含め97.5haで農薬や化学肥料を使わずに栽培しています。農薬を使わずにお米を作る方法として、おきたま興農舎では昔ながらの手取り除草や機械除草、カブトエビや真鴨(マガモ)を使った農法を用いています。この日は田んぼに真鴨を放すということで、おきたま興農舎の小林温(ゆたか)さん、和香子さんにお話を伺いました!
―田んぼで働く真鴨たち―
鴨を使った農法をご存知でしょうか。生後2、3週の雛を田んぼに放し飼いすることで、除草や防虫などの効果が得られ、農薬の使用を控えることができる農法です。おきたま興農舎のお米の有機栽培の取り組みの一つとして、この鴨を使った農法が取り入れられています。
おきたま興農舎の事務所に着くと、ピヨピヨピヨと鳴き声が聞こえてきました。農作業用のかごの中でぎゅっと身を寄せ合っている真鴨たち。トラックに乗せられて田んぼへ向かいます。田んぼに着くと、和香子さんが一羽ずつ放していきます。一枚30aの田んぼにだいたい20羽くらい。ぱたぱたぱたっと走っていき、田んぼの中で泥まみれ。くちばしを突っ込んで早速害虫のイネミズゾウムシや雑草の芽をついばみます。
「鴨を入れると水を動かしてくれるので草が出にくいんですよ。虫も食べてくれるのでカメムシの被害も少なくて済みます。酸欠で田んぼからぶくぶくとガスが出ることがあるのですが、そういう田んぼでは健全に根が張りません。そのために普通の田んぼは水を抜いたり入れ替えたり、薬を使ったりするのですが、鴨がいることで水が混ざり、ガスがわく心配も少ないんです。15年前に父親たちが合鴨(アイガモ)を試したのですが、体が大きくて稲の傷みが激しい上に糞の量が多過ぎて、除草機を使っていた時よりお米の味が落ちてしまいました。合鴨から真鴨に変えたのは、安全と美味しさを両立させたいという強い思いが一番の理由なんです。」
作業をしながら教えてくれた和香子さん。放たれた真鴨は、みんなで連れだって田んぼをすいすいと進んでいきます。小林さんの田んぼでは、基本的に真鴨はずっと田んぼの中で生活します。寒い日に放してしまうと寒さで死んでしまうため、天気を見計らうのは大切です。夜はキツネやイタチなどに襲われる危険があるため小屋に入れて守る人もいるそうです。小林さんの田んぼでは夜中に光るライトを設置し、また周りには網と電気柵を張り真鴨を襲う動物を近づけないように守っています。
「鴨には7月中旬くらいまで田んぼに居てもらいます。今はこんなにかわいくても、その頃にはびっくりするくらい大きくなるんですよ」真鴨たちは健康な田んぼでたっぷりエサを食べ、元気いっぱい成長するんですね。
―おきたま興農舎のこだわり―
今日見せていただいた田んぼでは、化学農薬も化学肥料も一切使用していません。「草が生えたら鴨と一緒に私が働きますよ」と和香子さん。薬をかければ様々な手間が省け安定した収穫ができるのに、使わないことにこだわるのはなぜでしょう。
おきたま興農舎は1989年、時代とともに変わる人々の食生活の変化に伴い、「このままでは子供達の健康も農村社会も崩壊してしまう。何とかしなくては」の一念で設立されました。現在でもその思いは変わらず、「美味しさが安全」をモットーに食べ物の本質的な価値にこだわり続けています。本質的な価値とは、食べてその元気をいただけること。元気はおいしさや安全性と繋がっています。
「農作物は育ち方で味や栄養が全然違います。農産物を買う際には、値段や見た目だけではなく、食べて元気をもらえるものを選ぶ目も鍛えてもらいたいなと思っています。」そう話してくださったのは温さん。農薬や化学肥料が全て悪いわけではないけれど、有機栽培の農作物はそれらを使わない分だけ手間がかかり、大切に育てられ元気をもらえる農作物、と言えるかもしれません。
秋にお米が実る田んぼでは、いま真鴨が元気なお米を作る手助けをしてくれています。薬に頼らず鴨に頼る。それは、わたしたちの生活の中にある大切なことを見直させてくれるヒントのようにも思えます。真鴨が助けた秋の実りが、今から楽しみです。
(取材日:2013.6.3)
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