長井市に日本一の野菜があるのをご存知でしょうか?情熱ある生産者たちが全国で最初に栽培に取り組み、そのおいしさから各地へ出荷されています。
その野菜 『行者菜』 は、希少な山菜「行者にんにく」を手軽に食べることができるように開発された新しい野菜です。収穫までに5年を要し収穫期間は2週間ほどしかない行者にんにくを、にらと掛け合わせることにより、収穫期間が長く栄養価の高い「行者菜」が誕生しました。その行者菜の魅力を知り、行者菜生産の第一人者となった『行者菜生産グループ』の遠藤孝太郎さんを訪ねました!
―長井市は全国で最初の生産地―
行者菜の生産者、遠藤孝太郎さんたちが行者菜と出会ったのは10年ほど前。宇都宮大学で行われた「だいこんサミット」で、行者菜開発グループの宇都宮大学助教授 藤重宜昭氏と出会い、行者菜についてお聞きしたのがきっかけでした。実際に行者菜を食べてみると、その香りの強さに驚き、遠藤さんたちは行者菜を作りたいと申し出ました。しかし、誰でも作っていいというものではなく、“行者にんにくが自生しているような場所で、そこの産品として山菜に近い位置づけで作ってほしい” という開発者の思いがありました。そこで遠藤さんたちは長井市にあった行者にんにく生産組合を訪ね、協力を得ることができ、平成18年に生産を開始したのです。
行者菜を生産するのは全国で長井市が初めて。前例がないため手探りで栽培方法を確立していきました。
行者菜は生育が早く、虫や病気にも強い野菜です。そのため一つの球根から何度も収穫ができ、最初は年間で5、6回刈り取っていました。しかし5回以上刈り取ると、球根に養分がなくなってしまうため次の年の生育が悪くなることが分かってきました。また、花を咲かせると養分の消費が多いため、咲く前に刈り取る必要があります。そういった特性が分かるまで5年ほど、技術者と紆余曲折しながら栽培に取り組みました。
生産と並行して販売にも取り組みました。一番悩んだのがにらとの差別化です。最初は30cmくらいの長さで出荷して見分けがつくようにしていました。しかし生育の早い行者菜はあっという間に30cmに達してしまうため収穫が大変で、また、ある程度成長させないと香りが乗ってこないということが分かってきました。
次の作戦はパッケージを変えること。東北芸術工科大学に協力を仰ぎ、行者菜のキャラクターを制作。そのキャラクターを用いたパッケージに変えたところ、差別化ができるようになったそうです。
栽培を始めた当初、生産量は約1トンでした。昨年は約6トンを出荷するまでになり、今年は10トンを目標としています。現在お付き合いがある取引業者は15社ほどで、大手スーパーや通信販売でも取り扱っています。
-ミックスジュースで活力アップ!―
行者菜は、栄養面でも注目されています。特に「硫化アリル」の含有率は行者にんにくよりも高いと言われています。
またビタミン類も豊富で、中でも葉酸はにらより2割近く多く含まれます。
行者菜を食べると体が活性化されます。遠藤さん曰く、その効果が一番わかるのは「行者菜ミックスジュース」。行者菜をミキサーにかけ、リンゴジュースとオレンジジュースを加え、水で好みの濃さにして完成です。これを杯(さかずき)一杯飲むと、お酒を飲んだように体が温まるのだとか。
そのほか、遠藤さん宅でいまブームなのは行者菜の甘酒漬け。濃縮タイプの甘酒に生の行者菜ときゅうりを和えて2~3時間おけば完成です。甘酒の甘味と行者菜の辛味がマッチして最高においしいのだそうです。
これからの時期は麺類の薬味としてもいいですし、ラップに包んでレンジで90秒温めればおひたしにもなります。おひたしは香りや辛味が抜けて甘味が残るので、にんにくの香りが苦手な方でもおいしく食べられます。そのおひたしにさきいかを混ぜて一晩おくと、味がしみ込んでお酒に合うおつまみになるのだとか。
この日、 花穂 の初収穫だったとのことでおひたしをいただきました。とても甘くまろやかで、しゃきしゃきとした歯ごたえが心地いい。花穂は葉の部分よりも甘味が強いのですが、収穫できる時期が短いためめったに出回りません。花穂を見かけたら、ぜひ召し上がってみてください。
香りと辛みと甘味、どの味も濃く、調理法によってその味が変化する行者菜。にらと同じように使え、にんにくを入れる料理に入れるとにんにく単体を入れた時よりも栄養がアップします。幅広い料理に使え、日持ちもするので冷蔵庫にストックしておくと便利!さらに、にんにくのように匂いが残らないので、安心して召し上がれます。
― 行者菜生産の広がり―
行者菜は、加工品としても様々なところで利用されています。最初に商品となったのは、長井市にある「草岡ハム」さんの「行者菜入りウィンナー」でした。そのほか、メンチカツやピザ、ベーグルなどにも利用され、地元の飲食店でも行者菜をメニューに加える店舗が増えています。また、生産者の奥様が手作りした行者菜入り味噌なども販売されています。
地域の人の協力を得ながら、行者菜をPRし続けている遠藤さん。2013年には、長井市で料理教室を開いている小野紀代子氏考案のレシピ本第二弾を発行し、(第一弾は2009年発行)さらなる可能性を見出しています。
「周りの人に恵まれています。いろんな方の協力があったから、行者菜も認知されてきました。」遠藤さんご夫妻は笑顔で話してくださいました。
作付面積、生産量、生産者数、3つのジャンルで全国1位を誇る長井市の行者菜、もちろんおいしさも1番!日々の食卓に、ぜひご活用ください。
(取材日:2013.7.2)