「高豆蒄瓜」と書いて、なんと読むでしょうか。答えは「こうずくうり」。川西町の高豆蒄地区で作られるため、この名前が付きました。
高豆蒄瓜は、成熟しても甘くならないメロン類の変種、シロウリの一種で、そのルーツは江戸時代後期の上杉鷹山公の時代にさかのぼると言われます。産地特産品として現在の川西町高豆蒄地区に奨励され、川西町には酒蔵が4つもあったことから、粕漬けにして食べられる習慣ができました。
今回、生産者の渡部こうさん、奥村厚子さん、奥村京子さんに、和気あいあいとお話をお聞かせいただきました!
左から、奥村厚子さん、奥村京子さん、渡部こうさん
― 代々続く高豆蒄瓜の栽培 ―
一面の瓜畑。濃緑、薄緑の葉がハスの葉のようにびっしりとひしめいています。渡部さんが、そのうちの一枚をめくって「この瓜はもうちょっとだな。明日採んのにちょうどいい。」と教えてくれます。今年は葉が大きかったため、葉をめくって瓜の状態を見て回るのにも一苦労。「こっちの瓜はよ、ここにあるのに気付かなくて大きくなってしまったなよ。種にするは。」種にする瓜のそばには、目印の棒が差してあります。
高豆蒄瓜は、それぞれの生産者が自家採種して代々栽培している野菜です。いくら大きく育てても、1つの瓜から10粒ほどしか採種できません。
不思議なことに、高豆蒄瓜の種や苗を違う土地に持っていっても、一年目はちゃんと実りますが、2年目には形が長くなったり食感が悪くなるなど、うまく実らなくなってしまうのだそうです。その理由ははっきりしていませんが、「土地柄だべね」と京子さんは言います。
収穫した高豆蒄瓜を見せていただくと、片手で持てる大きさと楕円形のやわらかい形、薄い緑の色合いがなんともかわいらしく、しかし実際に持ち上げると見た目以上にずっしりと重く驚きました。高豆蒄瓜のサイズの規定は、重さ800~1kgほど。お茶請けとしてお皿に盛ったときにちょうどいいサイズであるためと、大きく育てすぎると持ち運びが大変、という理由があるのだとか。
高豆蒄瓜は連作ができないため、毎年畑を変えているそうです。「今年は田んぼがあったところに植えてみました。期待したけど、立ち枯れしてしまって。」と厚子さん。畑には毎日入り、摘心(必要以上に蔓が伸びないよう芯を止めること)や草取り作業を行っているそうです。
― てまひまかけて丁寧に作られる粕漬け ―
高豆蒄瓜は、主に粕漬けにして食べられます。漬物以外の食べ方は、生産者の方でも聞いたことがないそうです。
粕漬けは出来上がるまでに3か月の時間を要します。まず縦に半分に切って種を取り、去年の古い粕に塩をたくさん加えそこに瓜を入れて1か月ほど漬けます。取り出して新しい粕に入れ1回目の本漬けを1か月、また取り出して新しい粕を加え2回目の本漬けを1か月して完成です。最初に古い粕に漬けることで、味のしみこみと色づきを早める効果があるのだとか。各家庭で代々伝わっているので、家庭ごとに多少味が違うのだそうです。
この日渡部さん宅でいただいたのは、この粕漬けと鉄砲漬け。「夏を越せるようにしょっぱくなってるげども」と出していただきましたが、肉厚でパリパリッと気持ちのいい食感、程よい酒粕の香りと塩加減で、ぱくぱくと箸が進みました。鉄砲漬けは、小さめに収穫した高豆蒄瓜の中心部をくりぬき、昆布でくるんだ自家製の野菜を詰めて粕漬けにしたもの。こちらは粕漬けよりすこし優しい味わいで、見た目も華やかなためお祝いの席にも喜ばれるのだそうです。
― 元気な女性が育てる高豆蒄瓜 ―
高豆蒄瓜は、昔から家庭用に女性が作る野菜だったそうです。それが20年程前、“まちおこし”として高豆蒄漬物組合ができました。しかし、高齢化や持ち運びが大変ということから、昨年その組合は解散することになりました。
その時、渡部さんはお得意様にお手紙を出されたそうです。内容は「これからは自家用と親戚用だけにするので、販売はやめます」というもの。すると東京のお客様から「お願いだから売ってください」と頼まれたそうです。生産者さんそれぞれに、すでにお得意様がついているので、そのお客様には今でも販売しているのだとか。ほとんどは漬物に加工してから出荷されるとのこと。一般販売はされていませんが、「生か塩蔵はみんなのところから1個200円で買えますよ」と渡部さん。
現在、高豆蒄瓜を生産されているのは5軒のみとなりました。渡部さんは「私が退職したら紀子さんに継いでもらうごで。」と語ります。お嫁さんである紀子さんは、「応援団でね」と隣で笑いながら、「昔のですけど」と古い新聞を取り出して見せてくださいました。高豆蒄瓜について書かれた記事と、高豆蒄地区の由来が掲載された記事でした。紀子さんが大切に保管していたのだそうです。
なくなってしまうかもしれない、と言われている伝統野菜「高豆蒄瓜」。生産者のみなさんは本当に元気ではつらつで、代々女性が栽培されているこの高豆蒄瓜は、女性が元気である限り途絶える心配がないように思えました。これからも、この土地で、高豆蒄瓜とおいしい粕漬けが作り続けられることと思います。
(取材日:2013.7.12)