米沢市窪田地区に、代々栽培され続けているなすがあります。
「窪田なす」は、初代藩主の上杉景勝公が会津から米沢入りした時に伝えられ、家臣である直江兼続が窪田町の家中の武士に作らせたのが始まりだと言われています。
かつて窪田町ではどの農家も栽培していたという窪田なす。現在ではその栽培者は数軒に減ってしまいました。今回、貴重な生産者のひとりである渡部照子さんに、お話をお聞きしました!
― 窪田の土地の野菜事情 ―
「こごさ嫁に来たどぎがら窪田なすは作ってだったなっし」
高畠町のご実家は蚕屋さんだったという照子さん。窪田地区へお嫁に来た時には窪田なすが栽培されていました。その窪田なすの育て方は、代々伝わってきた方法を教えてもらったそうです。
窪田地区は、かつて自給自足の暮らしが基盤でした。米沢市街地に近いことから、昔から野菜を供給する役割を果たしてきたそうです。その頃は、米沢市内から業者がリヤカーで野菜を取りに来ていたそうで、窪田なすもほかの野菜同様に業者に販売していたそうです。
窪田なすの種は、漬物の販売を行う『三奥屋』さんが提供してくれるのだとか。3cmほどの大きさで収穫し、へたを取った状態で三奥屋さんに出荷し、こうじ漬けやからし漬けに加工され、販売されています。漬物にするには、このくらいのサイズにすることで窪田なす独特のぱりっと固い食感が残るのだとか。
収穫は、菊の収穫がはじまるお彼岸の頃まで行われます。また、冬の保存食として「なす干し」も作られます。切り方はなすにより違うそうですが、窪田なすの場合は縦切りにして干されるのだそうです。
― 小さく育てて漬物に、大きく育てて料理用に ―
照子さんの畑で栽培される窪田なすはほぼすべてが三奥屋さん用で、自宅用に栽培しているのは10本ほどだとか。漬物用には小さい状態(3~4cm)で出荷しますが、自宅で食べる分はもうすこし大きく(5cmほど)育てるのだそうです。大きく育て火を通すと、窪田なすの皮が柔らかくなるのだとか。
おすすめの食べ方は、甘味噌で炒めたなす焼き。甘さを加えた味噌だれで炒めると、なすの食感と相まってとてもおいしいのだとか。半分に切って皮に切れ目を入れ、素揚げして味噌田楽のようにして食べてもおいしいのだそうです。
― 伝統を受け継ぎ、つなげていく ―
かつてなすと言えば窪田なすが一般的だった時代がありました。しかし皮が固いため、現在では薄皮丸なすが主流となっています。その影響から、現在窪田なすを栽培し続けているのはほんの数軒となってしまいました。
(取材日:2013.7.4)