「馬のかみしめ」という名前を聞いただけでは、にわかにどんな野菜か想像がつきません。実物を見て、なるほど。確かに馬が噛んだような模様があります。
かつてはあちこちで作られていた青豆「馬のかみしめ」は、品種改良された豆に押され栽培者が激減、一時は絶滅したと言われていました。長井市で少量を栽培し続けていた方が遠藤さんへ種を持ち込んだことから、栽培拡大へ動き出しました。
現在、自家用だけでなく商品として出荷している方はたったの3名。貴重な生産者の一人であり、馬のかみしめの“総合プロデューサー”ともいえる遠藤孝太郎さんに、お話をお聞きしました!
― 最後の栽培者から種が持ち込まれ、本格的な栽培がスタート ―
連なる葉山をバックに、見渡す限り広がる馬のかみしめ畑。田んぼの一部を転作して作られています。「今年は生育がよくて」と遠藤さん。見るとたわわに豆が実っていました。一粒一粒が大きく、茶色い毛が生えていて、見るからにとってもおいしそう。
馬のかみしめは、かつて置賜地域のあちこちで普通に栽培されていた在来種。平たくて、大豆にすると馬が噛んだ歯形のような模様がついていることから「馬のかみしめ」と呼ばれるようになりました。味も香りもよく、大豆にしても鮮やかな青色のため重宝されていましたが、豆の品種改良や機械化が進む中で、倒れやすく収穫後の選別が大変な馬のかみしめは徐々に栽培者が減ってしまいました。

一度は途絶えたと思われていた馬のかみしめの種が遠藤さん宅へ持ち込まれたのは平成18年のこと。これまで「さわのはな」や「花作大根」といった在来種を栽培してきた遠藤さんを頼って持ち込まれたのでした。そこから試行錯誤を経て栽培拡大・認知度アップに努めてきて、現在では地元の人には周知の作物に返り咲きました。
馬のかみしめは、6月上旬~中旬に種をまきます。在来作物のため肥料はほとんど与える必要はありません。与えすぎると丈が伸びすぎ、倒れやすくなってしまいます。収穫は9月末~10月10日ころまでのたったの2週間ほど。この時期に収穫しないと、味や色が落ちてしまうのだとか。種を撒く時期をずらしても収穫時期は変わりません。ちょうど稲刈りと同じ時期のため、この時期の遠藤さんは毎年大忙し。


枝豆の状態でも大変おいしい馬のかみしめですが、遠藤さん曰く、加工すると香りも味も最高なのだそう。豆腐、納豆、味噌などの大豆加工品のほか、お菓子類も多数販売されています。どれも大変おいしいのですが、加工品で大変なことは、作り手を探すことだそう。できるだけ地元で作りたいという思いのもと加工業者を探すそうですが、普通の大豆と性質が違うことがから加工するのに四苦八苦。その分、おいしくできた時には大変な喜びになるそうです。そうしてできた加工品は、元の豆の値段が高いことからどうしても割高になってしまいます。普通の大豆にはない手間がかかっているため仕方のないことですが、一度食べれば納得!その味のファンになること間違いありません。
伺ったその日は10月1日でした。「実は今日から息子が勤めを辞めて専業農家になりました。生産の方を息子に任せたら、もう少しいろんなことできるようになるんじゃないかと思ってるんです。」と遠藤さん。販路を広げ、加工品を提案し、馬のかみしめの認知度を高め続けていますが、まだまだ、と遠藤さんはおっしゃいます。「せっかくここまでいいものがたくさんできたのに、まだまだ届けることができていません。米沢や、東京へも伸ばせるといいなと考えています。」とのことでした。