「百年前のラ・フランスのおいしさを今に」
三鷹洋梨園 佐藤尚利さん
ぼつぼつの肌、ごつごつの形といういびつな見た目とは違い、とろけるような口当たりと甘みで人気のあるラ・フランス。明治時代に日本に苗木が持ち込まれ、各地で栽培が始まりました。
高畠町に、当時植えられた貴重なラ・フランスの木が残され、現在でも実をつけ続けています。その樹齢なんと百年以上!
今回はその古木を守り続ける、三鷹洋梨園の佐藤尚利さんにお話をお聞きしました!
― 大きくしない、多くしない、木に寄り添って実を育てる ―
ラ・フランスが日本に入ってきたのは
明治35年ごろ。大きくならず栽培も難しかったラ・フランスは、和梨の受粉用や加工用として栽培されていました。しかし三鷹洋梨園の初代園主は、栽培当初からその甘みやおいしさを認め、徐々に栽培面積を増やしていったそうです。
三鷹洋梨園の栽培方法には様々なこだわりがあります。通常は甘く大きい実をたくさん作るために大量に肥料を与えて育てますが、三鷹洋梨園では
毎年同じだけの肥料を与え無理に肥大させず、同じ数の実がなるようにしています。
また、果実に袋をかける
有袋栽培(ゆうたいさいばい)も行っています。昔は病気や虫の害から実を守るため一般的だった有袋栽培でしたが、一つ一つの実を袋に入れる大変さと、大きさが制限されてしまうなどの理由から現在ではあまり見られなくなりました。
佐藤さんが有袋栽培を続けている理由は、
なんといってもおいしいから。袋をかけないと、消毒などの農薬や日光を浴びて皮が厚くなり、肉質の部分にざらつきが出てしまうそうです。有袋栽培は、
舌触りが柔らかい滑らかなラ・フランスを作るためには必須なことと佐藤さんは考えています。もう一つ大切な理由は、
多く作りすぎないようにするため。袋に入れる作業を行うことで、1つの木に何個実っているのかが分かります。例年と比べ多すぎると分かったら、再度摘果をして数を揃え、木に負担がかからないようにしているのです。
そのほか、土を柔らかく保つためクローバーの種を撒くなど、おいしいラ・フランスを育て届けるための努力を惜しみません。
「木がやりたいように育てるのが一番です。自分たちは、木が自分で実をつけようとしてるのをお手伝いしてる気持ちで育てています。人間と同じで、無理をさせると必ずどこかで負担がきますから。」と佐藤さんは言います。木に寄り添い大切に育てられるからこそ、おいしいラ・フランスができるのですね。
― 百年の歴史がもつおいしさ ―
三鷹洋梨園には、そうして大切に育てられてきた
樹齢百年の木があります。日本で栽培が始まった当初に植えられたその木は、今も現役でラ・フランスを実らせています。
この木から収穫されたラ・フランスは、かつて
皇室にも献上されていたそうです。当時は木の周りを柵で囲み、家の人しか管理できないようにしていたのだとか。
さて気になるそのお味はというと。一般に栽培されているラ・フランスは、甘く大きくなる枝を選んで接ぎ木され品種改良されてきたものですから、どうしても甘さや大きさでは劣ります。でも、口に入れた時のとろとろの舌触りと、酸味と甘味のバランスがとてもいいと、佐藤さんはおっしゃいます。百年前のおいしさを味わえるのは大変貴重です。
― 高畠の果樹栽培を、もっと ―
佐藤さんは、三鷹洋梨園での栽培だけではなく、
地域の不耕地対策にも力を入れています。高齢化などの理由から栽培をやめてまう人が増え、年々広がっている不耕地を何とかしようと、地域で果樹栽培している仲間と共に
生産組合「くだもの畠」を立ち上げました。不耕地を借り受け、従業員を雇って果樹を栽培し、共同で管理していくことで畑を継続することができます。販売方法も工夫し、畑単位で顧客と直接取引することで、仲卸を通さずに販売までの過程をゼロにしようと取り組んでいます。それにより出荷の際の袋や箱詰めをなくし、コンテナで直接引き渡すことができるので、コストを下げることができます。
また、農家の寄り合いの場にもなればと考えているそうです。農業に携わる若い世代が情報交換をしたり、忙しいときは協力し合ったり、そしてなにより目的を持って共同で取り組むことで面白味も出てきます。「くだもの畠」は、
不耕地対策という目的のもと、新しい栽培・販売方法に取り組み、仲間が集まる場として期待されているのです。
「果物は1年に1回しか作れませんから、自分はあと20回くらいしか作れません。そう考えると、今からなにか始めないとと思ったんです。せっかく農家になったんだから、農家にしかできないことしてもいいんじゃないかなと。」収穫間際のラ・フランス畑の中で、佐藤さんは話してくれました。
この土地で、この畑で、百年もの間ラ・フランスを実らせてきた古木は、これからどんな歴史を見守っていくのでしょう。
(取材日:2013.10.10)
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