山形県、特に置賜地域と考えると、「お肉」で一番に思い浮かぶのは牛肉でしょう。ですが、山形にはおいしい鶏肉もあるのです。
在来の鶏がいなかった山形に、地鶏を造ろうという取り組みの中で生まれたのが「やまがた地鶏」です。育て方にはマニュアルがあり、健康にのびのびと育てられた地鶏は、歯ごたえと肉のうまみがしっかりとあります。
置賜地域でやまがた地鶏を飼育しているのはわずか8名。今回は、置賜地域での飼育先駆者である、白鷹町の紺野喜一さんにお話を伺いました!
― 鶏のことを考えて、大切に育てています ―
大きな鶏舎に独特の臭い、丸々と太り始終コケコケと鳴いているたくさんの鶏たち…。養鶏と聞くと浮かぶのは、そんな光景でした。しかし紺野さんの鶏舎は想像とは全く違っていました。臭いもないし、鳴き方もおとなしい。穏やかに鶏舎を歩く鶏たちはとってもかわいらしく、ストレスなく育っていることが窺えます。
やまがた地鶏が誕生したのは、今から10年程前。当時の県農業研究センター畜産研究部が地鶏の開発に取り組み、見つけたのが遊佐町で保存されていた「赤笹シャモ」でした。その赤笹シャモと名古屋鶏、黄班プリマスロック種との三元交配で行われ生まれたのが、やまがた地鶏です。
やまがた地鶏には、一定の品質を保持するための飼育マニュアルがあります。例えば、飼育期間。通常の鶏肉は60日ほどで出荷するのに対し、やまがた地鶏は120日以上180日未満で出荷されるのです。紺野さんは雪が降る前に出荷できるように逆算して、7月頃から飼育しているそうです。また、エサは100日齢までは飼育者全員同じものを与えることになっています。それ以降は別のものを混ぜて与えてもよく、紺野さんはブドウの搾りかすを混ぜて与えていたこともあるそうです。飼育状況の管理については、年に1回程度、振興協議会が農家を回り飼い方をチェックしているそうです。
鶏は暑さと湿気が苦手です。紺野さんは最初、桜の木を植えて囲い放し飼いにしていたのだそうですが、鶏インフルエンザが流行ってからは屋外での飼育が禁止されてしまいました。それからはハウスでの飼育を試行錯誤したそうです。ハウスの天井には黒い遮光幕が張ってあり、光を遮るだけでなくハウス上部の温度を上げる役割もしています。上部の温度を上げ天窓を開けておくと、あったかい空気が逃げていきます。その分、下の窓から風が入り、鶏のいる空間は涼しくなるわけです。温度計は常に地面近くに置き、35度以上にならないようにしています。鶏は暑いときは水飲み場か風が入る窓の近くにいたり、地面を掘ってべたっとしています。鶏の行動も温度の目安としているのだそうです。
臭いがない秘密はエサにあります。通常、鶏に与えるエサには病気を防ぐための抗生物質などが含まれていますが、やまがた地鶏はストレスがないように育てているため薬を与える必要がありません。また、エサを特定の場所だけでなく鶏舎に撒くことで、糞もいっしょについばみます。糞には7割も栄養が残っていると言われるので、ついばんでもエサを食べるのとあまり変わりないのだそうです。そのため、鶏舎の土はいつもさらさらで臭いがないのだそうです。
紺野さんは去年まで振興協議会の副会長として、やまがた地鶏の置賜代表を務めていました。現在では小国町での飼育者が増え現在7名になりましたが、白鷹町では紺野さんだけが飼育しています。