まだ冬なのに桜!?
そうなんです。冬に満開の花を咲かせる啓翁桜の出荷量は、山形県が日本一!中でも置賜地域は主要な産地となっています。
品質が良いと評判の高畠町産の啓翁桜は、羽田空港国際線ターミナルにも飾られ、日本を訪れる人々にいち早く春を届けています。
今回は平成15年から啓翁桜を作り続けていらっしゃる、JA山形おきたま枝物振興部会の部会長、菅野 誠さんにお話を伺いました。
― 啓翁桜の誕生と置賜での栽培 ―
啓翁桜は、福岡県の良永啓太郎さんという人が中国の「ミザクラ」を台木に「ヒガンザクラ」を接いで、枝変わり(突然変異)により誕生させたもので、啓太郎の一字を取って「啓翁桜」と名付けられたと言われています。春に先駆けて花を咲かせることから、お正月や卒業式、生花や結婚式などの花として用いられています。
山形県では、昭和30年頃に枝物花木生産の先駆者である石井久作さん(山形市)が冬の促成用に苗木を植えたのが始まりで、置賜地方では昭和40年代に白鷹町で生産を開始、徐々に高畠町にも広まってきました。JA山形おきたま枝物振興部会のメンバーは37名で、そのうち啓翁桜の栽培者は32名、うち17名が高畠町の生産者です。
高畠町産の啓翁桜の出荷先は8割が福岡県で、主な用途はホテルのディスプレイや結婚式用です。通常、家庭用では苗木を植えてから3年ほどで出荷するところを、4年かけて育てることにより、しっかりと枝を太らせて出荷しているそうです。
― 最高の花を咲かせるために ―
菅野さんのビニールハウスの中に入ると、花芽がびっしり付いた、たくさんの啓翁桜が出荷を待っていました。
質の良い、美しい花を咲かせるために、やらなくてはならないことは沢山あります。
・環状剥皮(カンジョウハクヒ)
花が咲く芽にするために、枝の下側の部分の皮を1cmくらいの幅でくるりと剥きます。
一株20〜30本の枝を一本一本、全部で120株ほどを、5月の初旬から遅くとも5月末までに全てやり終えます。
花を咲かせるために必要な環状剥皮ですが、枝が細くなるため、折れやすくなります。
強い風などで折れるとそこから枯れてしまうので、株の木を紐で括って折れないように工夫しています。
・温度管理
桜の出荷準備が始まると、ハウスの中の温度管理に気をつけなければなりません。
11月末頃から枝を圃場(ほじょう/栽培地のこと)から切り出して、1〜1ヶ月半ほど貯蔵しながら、出荷に向けて温度管理をします。その際ハウス内を13℃〜20℃、最高でも25℃くらいまでに保つ必要があります(湿度は60〜70%)。温度が高くなりすぎると花の色が白っぽくなってしまうのだそうです。
ハウス内の温度が設定より下がれば、自動的に気温を上げるしくみになっていますが、晴れて気温が上がる時などは、ハウス内が30℃近くなることもあるので、ビニールを開けたり遮光したりするなど、人の力で対応します。桜の出荷時期はこの管理作業があるため、なかなか家を離れられないそうです。
・そして雪!
雪が多いときはハウス脇を除雪します。
また、圃場によっては枝を切り出すために圃場の除雪も必要になります。
― きれいな花を咲かせてみよう! ―
せっかくの啓翁桜、どうやれば家庭で上手に咲かせられるか伺いました。
❀エアコンや温風ヒーターの風に直接当てない⇒風で枯れてしまいます
❀日当たりの良い室温(15〜20℃)に置き花を開かせる⇒ ピンク色のきれいな花が咲きます
❀花が咲いたら玄関などの涼しい場所に飾る⇒ 1ヶ月くらい長持ちします
❀水は1週間に1度は変えて、清潔に保つ
❀花が終わった後も、若葉色の葉桜が楽しめます。⇒啓翁桜は長く楽しむことができる桜です。
ー 啓翁桜は伸びしろがいっぱい! ー
「啓翁桜はまだまだ需要の伸びしろがあると思う。名前を知らない人もいるので、市場や花屋さんを通じて使い方などの提案しながら増やしていきたい」と語る菅野さん。
置賜の桜は品質が良い、という市場評価をもらっており、去年から比べるとお正月贈答用の高畠町産啓翁桜の出荷量は450%アップしたそうです。また、置賜地域全体で面積拡大が進んでいます。
「『やっぱり置賜のものは品質がいい』と言ってもらえるような桜づくりを、部会と一緒に切磋琢磨しながらやっていきたい。今の売上は4800万〜5000万円くらい。大きい夢だけど、置賜全体で売上1億円をあげるという意気込みでやっています」
菅野さんにとって啓翁桜は「冬の楽しみ」。
夏場の大変な作業を経て冬に花が開くのを見ると、今までの苦労が報われ、この仕事が楽しいなぁ、と思うそうです。
まだ雪深い冬に春を先駆けて咲く啓翁桜。置賜からの春の贈り物です。