誕生については諸説ありますが、昭和5年に福岡県久留米市の良永啓太郎という人が中国系の「ミザクラ」を台木にし、「ヒガンザクラ」の枝変わりとして誕生させたという説が有力です。啓太郎の一字をとって「啓翁桜」と名付けられたといわれています。啓翁桜はソメイヨシノのような太い幹はなく、根元から3メートルほど直立する細い枝が何本も集まった株立ちのような桜です。勢いよく成長する啓翁桜は、枝の伸びがよく枝を切り込んでも弱らないため切枝用に適しています。花の形や咲く時期などはヒガンザクラに似ています。
山形県は、栽培に適した気候風土と高い技術で、全国一の出荷量を誇っています。山形は秋の訪れが早いため、桜の促成栽培に適しているのです。正月飾りとして普及しつつある啓翁桜ですが、卒業式や結婚式といったハレの日を華やかに彩る花としても注目が高まっています。
山形県は啓翁桜の促成栽培に、全国的にも早い昭和40年代後半に取り組み始めました。
啓翁桜の準備が始まるのは5月から。樹皮を剥いて花芽をつきやすくしたり、草刈りや病害虫の防除といった肥培管理を秋口まで行います。秋になって気温が下がると休眠に入り、その後冬の低温期を経験すると休眠が覚醒し、気温が上がれば開花できる状態になります。促成栽培用ハウスに移し、昼は20℃、夜は10℃の気温を保てば20日ほどで春が来たと思い一斉に花芽が膨らみます。山形県では秋の訪れが早いため、桜はその分早く休眠に入り、早く目覚めさせることができます。啓翁桜の出荷時期は12月から翌3月。きちんと花を咲かせられる花芽かどうかを見極めた上で出荷されます。
啓翁桜は、うす紅色をしたボリューム感のある花が咲き、春の華やかさを演出してくれます。枝がスプレー状になるので、フラワーアレンジにも適しています。
長持ちさせるには、エアコンやヒーターの温風があたらない涼しい場所に飾ると良いです。桜の色もより濃くきれいになり、1ヶ月ほど持つようになります。